去る10月下旬に10日間、銀座のPOLA MUSEUM ANNEXにて、ソージュ主催のアートイベント「The Fitting Room」が開催されました。このアートイベントは、ブランド設立5周年を記念し、ソージュのブランドフィロソフィーである「I like the way I am.」を改めて多くの方々にお伝えしたく企画・制作されたものです。
オープン前日には、ソージュ代表の市原をモデレーターに、アートを通じて新しい社会とのつながり方を実践されている2名のゲストをお迎えしたトークライブも配信。多くの方々にご視聴、ご来場いただき、盛況をもって無事に会期を終えることができました。
今回は、アート展の一連の企画に関わったソージュスタッフ・コカドより、イベントレポートをお届けいたします。
写真:中島良平
試着室をコンセプトにした「The Fitting Room」
今回の作品コンセプトとなったのは、誰もがお買い物で利用する「試着室」。気になった洋服のサイズや色が自分にフィットするか確認する場は、自分に新しい何かを取り込もうとするパーソナルな空間としても捉えられます。
そんな試着室をテーマに、4つのパートに分けてインスタレーション作品が展開されていきました。
まず来場者を出迎えるのは、一面ブルーの床の空間。大きなエントランスのカーテンとその手前には白い布に覆われた服のラックが並びます。
2色で構成された異様な空間に、POLA MUSEUM ANNEXを定期的に訪れる方からは、「展示ですよね?」と、確認される様子も。
エントランスのカーテンをくぐると、試着室にはお馴染みの「フェイスカバー」。これから始まる作品それぞれのコンセプトを、フェイスカバーに一枚一枚丁寧に刷って作られたものです。持ち帰りできるので、頭に被って記念写真を撮られる方もいらっしゃいました。
次なる空間にも一面ブルーの絨毯が続きます。
現れたのは、カーテンを閉じた3つの試着室。迷わず入る方や、どこから入ろうか考える方、そもそも入って良いのか確認される方も。想像していなかった行動や反応が見られるのは、インスタレーションアートの醍醐味です。
1つ目の試着室で、展示されていたのは上下反転して見える不思議な鏡。逆さに映る鏡か?と思えば、近づくと徐々に反転し、いつも通りの自分が映るもどこか正常ではない姿です。
そこで目の当たりにするのは、客観視できているようで正しく捉えられない「不確かな自分」。歪んで映った滑稽な姿は純粋におもしろくも、何か深い問いを投げかけられたような心に引っかかるものを残します。
2つ目の試着室には、何層にもなるカーテンが連なった空間が。一枚、一枚カーテンを開けていくと、突然目の前に自分の姿が鏡に写し出されます。
声をあげて驚かれる方もいらっしゃる一方、笑い声が響き渡って小さいお子様が楽しまれる様子も。
カーテンをめくるたびに、何が待っているのかわからない緊張感や恐怖、自分自身の奥深くを覗かれていくような羞恥心など、さまざまな感情を抱く空間でした。
3つ目の試着室は、真っ暗な空間へ。そこでは、企画・制作を担ったBangal Dawsonと、映像監督の林響太朗氏のコラボレーションにより制作された映像作品「The Fitting Room」が投影されました。
学生・女性・男性・ピエロ、4人の登場人物が、試着室の中で「ありのままの自分」と対面するそれぞれの姿が描かれていきます。
約15分の量感のある作品ですが、何度も繰り返しご覧になる方が多く、会期後もオンライン等で見たい!といったご意見を頂くほど。
Bangal Dawsonの公式YouTubeにて公開中ですので、気になった方や、ご来場が叶わなかった方もぜひご覧になってみてください。
そして会期中に気づいたのが、この映像作品に通ずる空間に、ポツンと掛けられた「unsatisfied」。
実はエントランスに並んだカバーの中に「satisfied」も掛けられていたという伏線が。思わずニヤリとしてしまう仕掛けで、この作品の奥深さを垣間見た出来事でした。
ソージュがアート展を開催した理由
今回のイベントを開催するにあたって、メディアや関係者などの方々から「一体なぜソージュがアート展を?」という質問を多々頂くことがありました。
アートは人それぞれの受け止め方ができる自由度の高い表現方法の一つです。私たちが伝えていきたい「I like the way I am.」というメッセージを、一方的な押し付けや、誰かを否定するようなことは避けたいと考えた時に、アートを活用することがしっくりきたというのが答えの一つになります。
ただ、この答えをもっとわかりやすく言語化するのではなく、アートを日常的に取り入れている当事者の対話にきっとヒントがあるだろうと思い、「これからの時代を生きる私たちとアートの関係とは?」をテーマにトークライブも併せて行いました。ゲストは、ウィズグループ代表の奥田浩美さんと、起業家/アート思考キュレーターとして活躍する若宮和男さんです。
1時間に渡るトークライブの中で印象的だったのは「わからないに耐える」というフレーズ。「わかる=分けられる」と人は安心するけれども、アートはどうにも「分けられない」。アートに触れている方は、わからないことに耐える力があるのかもしれないというお話は、私にとって目から鱗が落ちる感覚でした。
このトークライブを余すことなく書き起こした記事は、分量もかなり多く、とても読み応えがあるものです。あえて余計にカットせずに文章化したので、ぜひお時間あるときに、ゆっくり読んでいただければ幸いです。
アートイベントを終えて
「わからないに耐える」というフレーズを聞いたときに、私がふと頭に浮かんだのは子どもの存在でした。子どもは、わからないことを「なぜ?なぜ?」と日常的に聞いてきますよね。年齢にもよるかもしれませんが、正確な答えが知りたいというよりも、私にはわからないことを通して想像の世界を楽しんでいるようにも思えるのです。
大人になるにつれてわからないことが増えた世界で自分が忘れてたのは、この子どもが持つ「わからない」をそのまま受け入れる感覚。これが、アート的な感覚に繋がるのかもしれません。
今回のイベントを通し、「I like the way I am.」と心地よく社会を繋がっていくヒントを多くの方にお届けできていれば嬉しいです。
これからの時代を生きる私たちとアートとの関係性
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